胸水・腹水の管理
					2000.5.31	川口 晶子

胸水の管理
1)胸水を疑う症状
 a. 胸痛・咳嗽(胸膜炎の症状)・・・胸水はまだ貯留していない
 b. 胸部重苦感、張り感    ・・・胸水貯留しはじめ
 c. 呼吸困難         ・・・胸水2000ml以上
   労作時息切れ、患側を上にすると増強する呼吸困難、起座呼吸
 d. 喀痰の増量、膿性痰(肺が圧排されておきた肺炎の症状)

2)胸水の有無の診断
  a. 診察(500ml以上の胸水が診断可能)
 音声振盪の減弱・消失、打診で濁音、聴診で呼吸音減弱など
 b. 超音波検査
  胸壁と肺の間に低エコー領域として確認できる。少ない胸水でも診断可能。
  胸腔穿刺を施行するときにも有用。
 c. 胸部X線写真
  立位(200ml):肋骨横隔膜角の鈍化(側面写真がより少ない胸水を確認できる)
          健常側への縦隔偏位
  患側を下にした側臥位(100ml)
  仰臥位:肺野の左右の濃度差、シルエットサイン(横隔膜や大動脈の辺縁が消失)
  d. 胸部CT
   胸壁と肺の間に低濃度領域として確認できる。

3)胸水の原因とその診断(癌患者で)
 癌にまつわるもの
 a. 癌性胸膜炎
  胸水をきたしやすい癌からの予測:原発性肺癌(腺癌>小細胞癌>大細胞癌)、
                  転移性肺癌(特に癌性リンパ管症を伴ったもの、
                  例えば乳癌、卵巣癌、胃癌、悪性リンパ腫など)。
  胸水穿刺:胸水の性状(血性、滲出性(比重1.015以上))、細胞診で悪性細胞、
       腫瘍マーカー上昇など。
 b. 低蛋白血症
  低蛋白、低アルブミン血症の存在、漏出性(比重1.015以下)の胸水など。

 癌以外のもの
  c. うっ血性心不全
   胸部X線写真で心陰影の拡大、漏出性胸水など。疑ったら心エコーを。
  d. 肺炎などの感染症
   胸部X線写真上の胸水との鑑別は、肺内血管の消失、気管支の透亮像など。
   熱発、膿性喀痰、白血球上昇、CRP上昇、膿性胸水など。疑ったら喀痰培養、胸水培養を。
  e. その他
     乳糜胸、肝硬変、ネフローゼ症候群、膠原病・・・。

4)胸水の治療
  a. 癌性胸膜炎による胸水・・・基本的には呼吸困難がある場合に処置を行う
    胸腔穿刺・排液 (第5・6肋間中腋窩線で、あるいは超音波ガイド下に)
 ・呼吸困難に応じてそのつど穿刺(週に1〜2回)。
  ・ 1回500〜1000mlの排液で症状改善することが多い。
  ・ 排液してもすぐ貯留することを考慮し一気に排液しない(1回1000〜1500mlまで)。
 
胸腔持続ドレナージ
  ・胸腔穿刺が頻回に必要な場合や、胸腔内に癒着剤を注入する予定がある場合に行う。
  ・1日1000〜1500mlまでの排液とし、排液量が1日50〜100mlになったら癒着剤投与を
    考慮する。

胸腔への癒着剤注入
  ・完全排液をし抗癌剤等を注入すると、胸水貯留がおさまることがある。
   例)ピシバニール 10KE
     (アドリアマイシン 30mg)
     生理食塩水 100ml
  ・全身状態や予後が良好な場合に適応となりうる。
  ・副作用として、発熱、疼痛、嘔気などが生じる。

b.  その他の対処法
  ・ 補液量の制限(予後が短ければ高カロリー輸液の中止)、利尿薬投与。
  ・ ステロイド投与(胸水が減るわけではなく、症状緩和目的で)。
  ・ 合併症(心不全、肺炎など)があれば、その治療。
  ・ アルブミン製剤などの投与は、よく考えてから。




腹水の管理
1)腹水を疑う症状
    腹部膨満感、食物つかえ感、胸やけ感、食欲不振、悪心・嘔吐、便通異常、腹痛、尿量減少、
    るいそうがあるのに体重増加、下肢のみの浮腫、呼吸困難感など。

2)腹水の有無の診断
  a. 診察
    側腹部膨隆、蛙腹(ただし、かなり腹水がたまっている場合)。
    打診上波動触知、体位変換による濁音界の変化など。
  b. 超音波検査
   ・ 低い部分に、無エコー域として確認できる。
   ・ 100ml程度の少量の腹水でも診断可能(特に肝右葉外側と側壁の間)。
   ・ 腸閉塞(腸管の拡張、液体貯留像)、尿管閉塞による水腎症(腎盂の拡張)、肝転移など腹部疾患の鑑別診断にも有用。
   ・ 腹腔穿刺を施行するときにも有用。

  c. 腹部CT
    腹水の量、血性腹水(やや高いCT値)かどうかも分かる。その他の情報も多く得られる。
  d. 腹部X線写真
    側腹部線条と結腸の間の増大、腸管ガス像が腹部中央に集中、内臓の境界が不明瞭、
    腸腰筋陰影が不明瞭、骨陰影が不鮮明など。

3)腹水の原因とその診断(癌患者で)
 癌にまつわるもの
  a. 癌性腹膜炎
  腹水をきたしやすい癌からの予測:卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、大腸癌、膵癌、乳癌など。
  腹腔穿刺:胆汁様または血性・滲出性の腹水、細胞診で悪性腫瘍、腫瘍マーカー上昇など。
  b. 肝転移による腹水、リンパ系の異常による腹水
  肝転移:肝転移の有無、漏出性腹水など。
  リンパ系の異常:腹水の性状(乳び様)など。
  c. 低蛋白血症
  低蛋白、低アルブミン血症の存在、漏出性の腹水など。

癌以外のもの
  d. 感染性腹膜炎
  熱発、白血球上昇、CRP上昇、膿性腹水など。疑ったら腹水培養を。
  e. その他
  肝硬変、うっ血性心不全、ネフローゼ症候群など

4)腹水の治療 
   症状がさし迫っていない場合
    利尿薬投与、ステロイド投与。
    水分・塩分制限、補液制限(予後が短い場合は高カロリー輸液を中止)。

   症状がさし迫っている場合
    腹腔穿刺・排液 (臍と左恥骨結合を結んだ線上の外側1/3、あるいは超音波ガイド下に)
  ・ 排液してもすぐ貯留することを考慮し一気に排液しない(1回1000〜2000mlまで)。
  ・ 排液とともに蛋白喪失、電解質異常をきたし、全身状態が悪化する可能性がある。
  ・ 急激な排液は循環動態の変化からショックを生じることがある(500〜1000ml/h程度で)。
  ・ 著明な腸管拡張がある場合は、腹腔穿刺は禁忌。

持続腹腔ドレナージ
  ・ 腹腔穿刺が頻回に必要な場合に考慮する(頻回な穿刺は腸管穿刺の危険がある)。

腹腔内抗癌剤投与
  ・腹腔内に抗癌剤を注入すると、腹水貯留が減少することがある。
   例)マイトマイシンC 20mg
     生理食塩水 100ml
  ・ 全身状態や予後が良好な場合に適応となりうる。
  ・ 副作用として、発熱、疼痛、嘔気などが生じる。

腹水濃縮還元静注
  ・ 排液された自己の腹水を、透析膜を用いて濾過・濃縮し静脈内に再注入する方法。
  ・ 主に蛋白、アルブミンが補充できる。
  ・ 最近は、癌細胞やエンドトキシンを吸着できるものが出てきた。
  ・ 再静注後、発熱、悪心・嘔吐などが生じることがある(エンドトキシンのため)。
  ・ 保険適応は2週間に1回。コストも高い。

腹腔静脈シャント
  ・ 腹腔内と内頚静脈間に、一方向にしか流れないような弁装置がついた管を設置する方法。
  ・ 手術は、局所麻酔下で、比較的短時間で可能。
  ・ 術中死亡が15%にのぼる。
  ・ 合併症(癌細胞の血行散布、肺塞栓、DIC、消化管出血など)がある。
  ・ シャントの閉塞などトラブルが多い。

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